ちょっと、そんな話、ここで
[エリオット氏は困惑して辺りを見回した。
幸い、さほど大声ではなかったが、誰かに聞かれはしなかったかと不安になった。
平和な街で起こった殺人事件。あらぬ疑いをかけられるのは御免だ。何しろエリオット氏は一昨日の晩も、昨日の昼にも死んだ男に会っている。もっとも、それ以上に怪しい人物を、彼は知っているのだが。]
偶然に決まっているでしょう、そんなもの。
それに――
[昨日のことを編集者に話そうとして、はっとして口を噤んだ。
もし、本当にあの男が殺人鬼だったら?被害者を連れ去るところを目撃した人間を、どうするだろうか?]
……い、いや。なんでもありません。
[消え入るような声で絞り出し、エリオット氏は俯いた。編集者は怪訝な顔で彼を見る。
その事件を目撃したのは、彼だけではなかった。彼が花売りの娘について思い出し、その身を案じるには、この最初の動揺が過ぎ去るまで、いま暫くの時間を要するのだった。]
(4) 2014/07/09(Wed) 03時半頃